四国にて。
山の奥はいつもすこし濡れていて
緑がもう一段濃い色をしている。
四国という土地の隅々にゆきわたるこの気配はなんだろう。
だれもいない山のなかにいてもさびしくない
このふしぎな息づかいは。
「目にみえる」
よりもうすこし手前のところにあるなにかの粒子が
密度を保ったままどこまでも満ちている。
そんな感じがするのです。
グーグルマップが示すくねくねの山道を延々と辿りながら、
ここでパンクしたらおしまいだとおもう反面、
しっとりと濡れた山の姿体に見惚れていました。
友だちが暮らす小さな漁港は
伊勢海老漁が解禁の時期です。
午後はとても静かで
ぽく、ぽく、と波が船底を打つ音が響いています。
人と人、家と家、海と山がほとんどくっついていて
いつも、だれかやなにかの気配がしている。
浮かんだりしずんだりしながら、
波を乗りこなすように
この場所でしなかやかに暮らす彼女の横顔が逞しかった。
町のお好み焼き屋さんへ行ったり、
山に登って滝を見たり、
とれたてのお刺身をスーパーで買って手巻き寿司をしたりしました。
ちょっと立ち寄るつもりが、三日目の朝まで居候して
自分のなかの去りがたい気持ちをどうどうとなだめながら、
次の目的地へ向かって車を走らせます。




