帰郷


谷川俊太郎










私が生まれた時


私の重さだけ地が泣いた


私は少量の天と地でつくられた


別に息をふきかけないでもよかった


天も地も生きていたから




私が生まれた時


庭の栗の木が一寸(ちよつと)ふり向いた


私は一瞬泣きやんだ


別に天使が木をゆすぶった訳でもない


私と木とは兄弟だったのだから




私が生まれた時


世界(コスモス)は忙しい中を微笑んだ


私は直ちに幸せを知った


別に人に愛されたからでもない


私は世界(コスモス)の中に生きるすばらしさに気づいたのだ




やがて死が私を古い秩序にくり入れる


それが帰ることなのだ

















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