風が吹くと。




みなさまいかがお過ごしでしょうか。

わたしは十日間の瞑想をあけてつくばに来ています。

滞在先では日々がよく晴れて空が高く、

ハワイのようなあまい風がふいていました。

あさ目覚めてよる眠るまで

様々な感覚とともに、いろいろなひとたちの顔が浮かんでは消えてゆきました。

みんなの穏やかな日々を願わずにはいられない、

甘くて痛くて愛にあふれた日々でした。

いつかほんもののハワイにいってみたいです。






『生命(いのち)は』
 
生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱いだき
それを他者から満たしてもらうのだ
 
世界は多分
他者の総和
しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?
 
花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている
 
私も あるとき
誰かのための虻だったろう
 
あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない


吉野弘詩集『風が吹くと』1977年

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